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第十回「犬にはリードを付けないと」

先日、ギターのP助が犬を助けたんだってさ。

雨降る夜の駅前で、交差点で赤信号を待っていたら、対面から首輪をつけたチワワが一匹だけで道路に飛び出して来たんだって。

そこに、タクシーが気づかず侵入して来たところを、そこは“大の動物好き”、P助が身を呈して車を止め、即座に抱きかかえ間一髪。チワワは救われたんだって。

そしたら遠くから犬の名前を呼ぶ飼い主の声が聞こえて来て、無事引き取られた。とても感謝されたらしい。まぁそりゃそうだよな。向こうからしたら命の恩人だからさ。

この前のライブの打ち上げで、そんな話を聞いて良い話だなぁ、と関心していた。誰かの為に良い行いをすることは相手にとっては勿論、自分にとっても素晴らしい体験に違いない。

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今日。天気が良いから俺は午前中から自転車に跨って、同じく駅前を走らせていた。

そしたら前方に犬が一匹リードも付けずテクテクと歩いているではないか。周りの人も若干ざわついている模様。

これまた小型犬で、動物に疎い俺には種類がわからないけど可愛らしい犬だ。

車や人は当然、バスも近くを通行する道なので危険極まりない。この迷い犬の運命が危機に面していることは間違いない。

その時に明確にP助のエピソードが頭によぎって、普段なら街での揉め事は我関せずだけど、今日の俺は一味違うぜ、と心に誓ったことを覚えてる。

幸い、歩く速度は遅いので、すぐさま自転車で後を追いかけ、犬が小道を曲がり、入ってすぐのお店の入り口付近でウロウロしてるところを狙って、自転車から降りて捕獲に向かった。

しかし、犬も流石に俺の登場にビビっている様子で、すり抜けて来るから中々捕まえられない。

片手で持っていた自転車も道に倒し、本格的に捕まえようと隅っこにちょっとずつ追いやり、ようやく抱きかかえる事が出来た。よし、これであとは無事に交番に届けるだけだ。さぞ飼い主も心配してることだろう。

と抱えながら自転車に跨り、走らせようとした矢先。

俺のことを応援してくれてると思っていた、ずっと近くで傍観してたオバさんが言った。

「ウチの犬なんですけどさっきから何してるんですか…?」

返す言葉がない。

同時に、これまでの一連がフラッシュバックする。

混乱する頭で、下記の三点に気づいた。

❶俺が発見した時、犬が歩いているちょっと後ろには確かにそのオバさんが同じような速度で歩いていた。

❷俺が犬を捕まえようと格闘してる時、オバさんは強張った表情をしながらも、怖がる犬に向かって「こんにちは、だね。こんにちは、だね。」と優しく諭していた。そういえば、一緒になって助けようとしてくれないのが不思議だった。

❸犬はその店の入り口付近に到着した時、やたら落ち着いていた。よく見たらその店の看板にはその犬にそっくりなイラストが書いてある。

俺は犬を抱っこしながら、震える声で返事をした。

「あれ…もしかしてあなたの犬ですか…?」

オバさんはこの店の経営者であり、犬は店の看板犬。いつもの慣れた散歩コースをリードなしで歩き、犬がちょっと先導してお店に着いただけだった。

もう、目も見れない。どうして良いか分からない。

散歩中に男が後ろから犬を追っかけ、到着するや否や、店先で自転車を放り投げ、追いかけ回し、挙げ句の果てに抱えてどこかに連れて行こうとする。しかも顔は可愛がる様子ではなく、真剣そのもの。

ただのホラーだ。

P助の話の直後だったせいで、もう完全に自分の中の思い込みに没頭してしまっていて、周りが全く見えてなかった。今になればわかる。誰がどう見たって、どう考えたって、このオバさんの犬でしかない。

そっと犬を渡し、うつむきながら、

「リードはつけましょうや…。」

と謎のイントネーションで小言を言い放ち、足早に自転車に跨りその場を去った。恥ずかしすぎて、そっから家までの記憶がない。

人の為、世の為に力になりたい。困っている人や動物がいたら助けたい。そう願っていただけなのに。結果はこの有様だ。

俺の人生って、大体こんな感じなんだよ。

おばさんにも言ったけど、犬を飼ってる人はくれぐれもリードは付けてくれ。

あなたの大切な命がどうなろうと、もはや知ったこっちゃないが俺みたいな人間が振り回されるんだ。

今日もまた世界は、俺を邪悪な悪魔へと一歩近づかせた。顔も耳も心も真っ赤に染まった。そろそろ角生えてくるんじゃないかな。

P.S 新曲について書きたかったけど、まくらが長くなったのでそれはまた今度で。談志みたいで、かっけー。

photo by Rio Nakamura

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