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第六回「ドウユウ状況?」

口癖ってのは人それぞれあると思うけど、俺の場合ちょっと異常なまでに、同じ言葉を使ってしまうんだな。

よく会う人は、もうとっくにお察しだろうが、

「ドウユウ状況?」

である。

この言葉、何気なく使っているけど、とんでもなく便利なのだ。

今夜だれかと飯でも行こうかと誘う時に相手に送る「ドウユウ状況?」
早く帰りたい打ち上げでのマネージャーに小声で囁く「ドウユウ状況?」
友達が体調悪そうな時に心配して使う「ドウユウ状況?」
街で変な人に絡まれた時のオドオドしながらの「ドウユウ状況?」
昼飯何食う?の時の相手にラーメンかカレーどっちか聞く時の「ドウユウ状況?」
遅刻してる奴に催促で使う「ドウユウ状況?」
電車が止まった時にため息交じりで呟く「ドウユウ状況?」。

その他、数えたらキリが無いほどあらゆる場面で活躍するキラーワードだ。

口癖は人に感染する。伝播していく。
あまりに俺が言うもんだから気付けばバンドメンバーは勿論、スタッフ、友達、更には姉貴や母親と云った身内までもが、この言葉を無意識に使っているのを聞いた時はさすがに驚いた。

ふと考える。なぜこのキラーワードが姿を現したのか。実は、その誕生の瞬間を俺は鮮明に覚えている。この言葉を最初に口にしたのは、俺本人ではない。俺の幼馴染であり元ドラマーのY君である。

話は、忘れもしない9年前のクリスマスイヴの夜に遡る。18歳だった俺ら二人は恋人のいない寂しさから、賑わう街へのアンチテーゼの一環として、決心して2人で道玄坂の風俗へ入った。女性のみなさん、引かないで欲しい。遠い昔の青春の1ページだと思ってくれ。

時間経過。

店を出て俺は先に外で待っていると、彼が大変不機嫌そうな顔で出てきた。と云うか、打ちひしがれている。

どうしたの?と聞くと、次のような物語をぽつりぽつりと語り出した。

部屋のチャイムが鳴り、彼は緊張を押し殺しながら、ドアを開けると女の子が入ってくるなり、こう言い放った。

「からあげくん、食べていい?」

ビックリしたものの、経験不足ゆえ、そう云う店での常識やルールに疎い彼は、事態を把握しきれず、その提案を了承してしまった。

すると女の子は、おもむろにコンビニの袋から、からあげクン期間限定“ピザポテト味”を取り出し、部屋の備え付けのTVのスイッチを押し、ぱくぱくと食べ出したのだった。

彼は、どうしていいのか分からず時が過ぎるのを待った。とにかく待った。只々ベットの上に腰掛け、食べ終わるまで女の子の背中とTV画面を静かに眺め続けた。

しかし、5つのからあげクンが女の子の胃袋の中へと落ち、容器がカラになったにも関わらず、その女の子は頑なにTVを見続けるのだった。

秒針の音がやけに大きく響く。ふと見ると、いつのまにかサービス時間を測るタイマーのスイッチは押されていて、もう10分近くが過ぎていた。TVのリモコンはすぐそこにあるが、手は伸ばせない。近くて遠い。

残り時間が45分を切った時、とうとう彼は勇気を振り絞り、沈黙を破った。

部屋の中に、声が弱々しく響いた。

「ドウユウ状況?」

ドーン。誕生秘話。

寒空の下、道玄坂を降りながらその話を聞いて、俺はずっと笑っていた。寒さと笑い過ぎで、涙が出た。クリスマスイヴは、全然寂しくない夜になっていた。


P.S あれから、8年。もうすぐ今年もやってくる。俺はイヴも当日も仕事。なんだかあの頃が懐かしいぜ。

あなたのクリスマスは“ドウユウ状況?”

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