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第五回「しんのすけと云う男」

もう2度と変な奴とはバンドを組まないと決心して結成したバンド、ツー。なかなかヤバい男が混ざっていた。その名も赤坂しんのすけ。2のベーシストである。そして、稀代のド天然である。

彼は俺の一個下で、26歳。元々10代の時に同じライブハウスで、俺と切磋琢磨していた後輩バンド・ポニーテールスクライムの一員であり、2のギターリストP助の幼馴染である。そんな縁で、昔から知ってるもんだから、俺は2のメンバー募集当時、何年も会ってなかったしんのすけをベーシストとして迎えようと画策し、一応P助に事前に許可を取って連絡し、渋谷の宮益坂中腹あたりに構えるちょっとお洒落で渋めの純喫茶で待ち合わせることにしたのだった。かれこれ、2年前の冬である。

十代の頃のしんのすけのイメージは、ひょうきんな良い奴、というイメージだった。いつもP助の横にいたから、何かと会う機会も多く、互いに良い印象だったから、俺からのオファーも多分喜んでくれるだろうし、スムーズに話が進むと思っていた。

がしかし、そんな楽観的な希望は、出だしの待ち合わせから狂い始めた。
まず、待ち合わせが出来ない。メールでの会話が噛み合わない。俺は当時はしんのすけが“稀代のド天然”ということを知らないから、一生懸命対応していた。彼がなぜか道玄坂で待ってるらしいので、俺がそちらに向かうと、彼は宮益坂にいる。俺が、宮益坂に戻るとなぜかスペイン坂にいる。そして、そのやり取りの間のメールの文章全てに誤字脱字が半端ない。気づけばおれはライブの時ぐらい汗だくになっていた。

あまりに困り果てて、P助に、

「あなたの幼馴染って、変なクスリやってる?」

と突飛よしもない質問してしまった。

何とか時間をかけてやっと待ち合わせる事に成功し、喫茶店でアイスコーヒーを注文して、"バンドやろうぜ"と云う本題の前に、何とはない世間話から始めた。すると、彼からは唐突に、

「フルくん、P助とホタノイズってバンドを始めたんだよね?」

と言われた。

1つ言わせていただきたい。ホタノイズなんてバンドを組んだ記憶も事実も1つもない。何故そんな誤報が流れたのかは未だに謎である。バンド名も中々興味深い。

それでも、まだド天然と気付いてないもんだから、適当に否定して、とうとう俺は本題に入った。

「こうこう、こう云う理由と流れがあってさ、こうなって今、単刀直入に聞くけど、しんのすけ、俺とP助とバンドを組まない?」

俺はてっきり、三択だと思っていた。

A.やりたい!
B.ごめん、無理だ。
C.ちょっと考える。

しんのすけの一言目に飛び出したのは、俺をパニックに陥れた。なんと、彼の中には、想定外のD.という選択肢があったのだ。

「フルくん、今からタワレコ行かない?」

「え…なんで?」

「フルくんとCDを選びたいんだよな」

咄嗟に言ってしまった。ずっと堪えていた後輩に対する荒ぶった言葉が出た。

「いかねぇよ。」

すると、

彼は落ち着きを払って何事もなかったように、明日返事をする、との旨を伝え、次の日ノリノリのテンションでバンドへの加入を表明し、2の一員となった。

そして、今日に至るまで数多くの大ボケを記録しているのである。1つだけ念を押したい。彼はウケを狙ったり人を笑わせようと云う気がサラサラない。それなのに、ずっと周りの人を笑わせ、時に混乱させ、魅了し続ける。あと、人生で落ち込んだこと、傷ついたことが一度もないらしい。

今回はあくまで導入にすぎない。100分の1にも満たないストーリーだ。本気で書き出したらパート10までいくだろう。なので、また近々伝説を語らせてくれ。次回、『ボーカル歌入れ中に、しんのすけ乱入事件』について話そうかと思っている。

"しんのすけ"と云うワールドを掘るか掘らないかは、あなた次第。

P.S 早2年近く2と云うバンドを組み、色んな人にお世話になって今がある。しかし、しんのすけは、音楽業界の関係者の名前を3人しか覚えていない。というか、覚えられない。その3人とは、僕らが所属する会社の社長とマネージャーとデスクのみである。今日も彼は、今この瞬間に吹く風を切って歩いていく。過去も未来もない、今日を全力で生きている。

photo by Rio Nakamura

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