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第十七回「左目の病」

ここ何日かの話。

 

ある日突然、本当に突然。俺の視界の左っ側に、まん丸な形をした穴がボンヤリと浮かび上がっていた。最初は、

 

「ん?なんだこれ、」

 

ってぐらいで、目の錯覚だろうと決めつけ普通に過ごしていたが、あまりにも長い時間存在感を放っているので次第に気になり出した。

 

どこから現れ、どこに居座り、何をしてるのかもわからない、本当にいるのかいないのかさえ分からない"あやふや"な厄介者だったが、ふと右目を塞いでみると、なんと穴はくっきりはっきりと、より大きく出現した。そいつは、錯覚なんかではなく確実にいた。逆に左目を閉じるとその穴は完全に消えるではないか。説明が難しいが、なった人にしか理解出来ない感覚だと思う。

 

どうやら俺の左目に何かしら起きている、ということに気づいた。因みに、痛みや痒みなどは一切ない。鏡で見ても変化はない。

 

徐々に判明したのは、その穴は時と場合によって色が変わる、ということだった。

ケータイの画面を見ればそいつは黄色に染まり、パソコン画面だとオレンジ色に、肌の上では紫色に、空だと透明に。様々だった。

 

「綺麗だなー。不思議だなぁ。」

 

なんて思っていたのも束の間。今日新たに加わったコンテンツは、左目と右目を交互にパチクリさせるとよく違いが分かるのだが、景色全体の明るさ・トーンが両サイドで全然違う、と云うことだった。左の世界は、どこかオレンジっぽく薄暗い。右の世界は、今までの俺の知ってる明るい世界。

 

これはあかん、と思い立ち、眼科に駆け込んだ。

 

診断結果は、

 

"中心性漿液性脈絡網膜症"

 

という病。

 

ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう。

 

名前の長さに驚いて、内容が掴めない。

 

眼科の先生に言われたのは、

 

「お仕事何してる?大変?これはね、働き盛りの30代から50代の人が、頑張りすぎて時たま罹る病気なんだよ。」

 

「原因はなんですかね?」

 

「ストレスだよ。仕事のストレスで罹る病気なんだ。休みちゃんと取ってる?」

 

「。。。」

 

病より、職業だけがバレるのが怖かった。

 

「最近、パソコン作業が多くて。。」

 

「いや、パソコンとかケータイは直接的には関係ないよ。」

 

と云う先生にもバレたんじゃないかぐらいグレーな嘘をつきながら、バンドマンであることをひた隠した。

 

だって、真逆なんだもの。

 

俺は自分の活動を"仕事"と呼ぶのをなるべく避けたい、と思って来た人間だ。

 

いや、そもそもちょっと待て。俺まず20代だし、死に物狂いで働く、というよりも自分の好きなことやって生きてきた人間なんだけど。俺のどこにそんなストレスがある。今週末も、まぁ仕事っちゃ勿論仕事だけど、沖縄に三日間行ってきた。実質働いたのは登壇と取材合わせて1時間半ぐらいで、後は楽しく飲み食いしていただけ。もちろん大先輩もいて多少なりとも、"解放"というよりは、気を遣ってないと言ったら嘘になるぐらいは緊張していたけども、全然ストレスなんかとは程遠い。むしろ色んな話、色んな景色、色んな食べ物と出会えて幸せな三日間を過ごした。週5日で働いてるサラリーマンたちに比べたら、彼らに足を向けて寝られないほど、汗水垂らして社会経済に貢献していない。改めて言う。何がストレスだ!、なのだ。

 

なのに、俺の左目は悲鳴を上げた。

何故だ。何ゆえお前は、俺の心よりも敏感にストレスを感じ取り、景色に円を描いたのだ。

むしろ、右目が鈍感なのか?いや、右目と左目は元来仲良しじゃないのかい?せめて両目で同時に来るべきだろう。右目の裏切りもの!(いや、彼がちゃんとしていてくれなかったらこの2日、中々生活しづらかった。)

 

結論から言うと、水が眼球の内側に溜まって接地面に隙間ができてしまう病で、薬を飲めば時期に治る、らしい。(個人差が多々ある。大体三ヶ月程度。)

 

ただ癖になりやすく、再発がかなり多いらしく、一回かかると割と厄介な病気とのこと。

 

今も瞬きの度に、チカチカと円を描く。

 

人類が初めてブラックホールの撮影に成功したと最近ニュースになっていたが、その画像にとてもよく似た形をしている。あと、女子高生がよく飲み歩きしているプラスティックカップの底に浮かんでるタピオカにも似ている。

 

世知辛い現代社会を生きるピープルたちよ。

 

人のメンタルは、そんなに強くない。

 

もしくは、俺がとても弱い。

 

のどちらかだ。

 

早く治れー。

 

P.S 唯一考えられるストレスは、寝るときに必ずYouTubeでかける「絶対眠れるリラクゼーション音楽」の途中で、突如大音量で流れるCM。あれ、どう言う神経したら、作り手はそんな設定にしちゃうの?

 

世の中どうかしてるぜ。

photo by Rio Nakamura

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